水玉のベスト

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If Albert, who was a little cracked and had a penchant for dotted vests, happened to see a cutaway hanging on the rack with the words H.W. Bendix written in green ink on the try-on notice, he would give a feeble little grunt and say――”feels like spring today, eh? ” There was not supposed to be a man by the name of H.W. Bendix in existence, though it was obvious to all and sundry that we were not making clothes for ghosts. Of the three brothers I liked Albert the best. He had arrived at that ripe age when the bones become as brittle as glass. His spine had the natural curvature of old age, as though he were preparing to fold up and return to the womb.

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cracked 砕けた、割れた、(人格、信用)損じた、落ちた (声)しゃがれた<口語>いかれた、気の変な
penchat 傾向、好み、趣味
dotted(服)水玉
cutaway モーニングコート
try-on 試着、試し
notice 気づき、知らせ、ビラ、告知文
feeble 弱々しい かすかな
grunt ブーブー鳴く、言う
feel like(天候)どうやら〜らしい
be suppose to〜 〜することになっている、〜するためにつくられている
sundry 種々様々の
obvious 明らかな、わかりきった
though〜 〜にもかかわらず、〜だけれども
ripe 熟した、盛りの、すっかり準備の整った
brittle 砕けやすい、割れやすい、もろい
spine 背骨、脊柱、脊椎
curvature 曲げること、湾曲、ひずみ
prepare 準備する
fold up きちんとたたみ込む、たたんで小さくする
as though=as if〜 まるで〜かのように


ベンディクス三連星のひとり、アルバートです。
”feels like spring today, eh? ”が難しいところです。直訳すると「どうやら今日は春みたいだな、あん?」となるところですが、それじゃあまりにも意味が伝わり辛いです。色々考えてみたんですが、僕の出した結論は、これは少し前に出てきたthe words H.W. Bendix written in green inkのgreenにかけてあるのでしょう。greenは緑という他に、草、「あー田舎は緑があっていいなー」と言う時に使われる意味でのグリーンのことだと思われます。もしくは、「一体いつから春になったんだい?」という、そのまんまのすごーく遠まわしな皮肉か、のどちらかでしょう。cutawayはモーニングコートはコートとはいえ、要するに燕尾服ですから季節は関係ありません。ちなみにgreen inkをウィキで調べると、確かに独自の意味はありますが、この場合には関係のない内容でした。ですからここでは、緑色をまぶしがるアルバートというニュアンスを軽く、どこかに補い出来るだけ緑のインクのすぐ後にアルバートの発言が来るようにできればいいんですけど。

ちなみに前半の長い一文は仮定法になっていますが、あまりに具体的な記述から「上島竜兵の仮定法」と名づけましたw 読者からすれば「お前、絶対にそれをやらかしただろ!」と突っ込む場面です。

次の文は否定をひっくり返して「幽霊に服を作っていたように」とやっておきます。



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僕らの方も触れないように充分に気をつかっていたけど、水玉模様のベストが好きな、ちょっとイカれたアルバートが店にやって来て、ラックに架かった仮縫い中のモーニングコートに「H.Wベンディクス様」と書かれた札がぶら下がっているのに気づくようなことが起こったとしたら、もぐもぐ不満をこぼしながら緑色のインクで書かれた名前を見て言っただろう。「どうやら今日は春みたいだな、あん?」そんな状況では、まるで僕たちが幽霊を相手に実に様々な服を作っている最中だったかのように、H.W.ベンディクスという人間は存在しないことになっていた。僕は3人のベンディクス兄弟の中でアルバートが一番好きだった。彼はすっかりお迎えの準備ができている年になっていて、骨もガラスのようにすっかりもろくなっていた。

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