エレベーター

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You could always tell when Albert was arriving because of the commotion in the elevator――a great cussing and whining followed by a handsome tip which accompanied the process of bringing the floor of the elevator to a dead level with the floor of our tailor shop. If it could not be brought to within a quarter of an inch exactitude there was no tip and Albert with his brittle bones and his bent spine would have a devil of time choosing the right buttons to go with his dotted vest, his latest dotted vest. (When Albert died I inherited all his vests――the lasted me right through the war.)

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commotion 暴動、騒動、動揺、持続的な動き、同期的運動
follow 〜の結果として 〜についてくる
cuss <口語>curse ののしる、九対をつく
whinge 泣き言を言う、愚痴をこぼす、
tip チップ
handsome (金額などの)かなり、気前の良い
accompany 同行する
exactitude 正確、精密
devil of〜 <口語>実にひどい、どえらい、痛快な
inherit 授かる、相続する、受け継ぐ
last(vi,vt)続く、存続する、耐える、持ちこたえる、損なわない



これだけを読んでも、アルバートが誰と争っているのかわかんない人が多いんじゃないでしょうか。ちょうどディックの小説の中で当時のエレベーターを描写したものがあるので、それをまず引用してみます。

<そして、自分が開いたエレベーターの箱と向かいあっているのに気づいた。ピカピカの真鍮の飾りのついた檻型のエレベーターは、一本のケーブルで吊るされていた。制服姿でどんよりした目つきの昇降係が腰掛けに坐り、ハンドルを動かしている。昇降係は二人を無関心に見つめた。>
「ユービック」(フィリップ・K・ディック 朝倉久志訳)

当時のエレベーターは人が乗って操縦してたんですね。当然、上手な昇降係もいれば下手な人もいて、床ぴったりに停めれない場合も多かったんだろうと思います。当時をしのばせる日本の古い手動式のエレベーターも残っているようです。
http://portal.nifty.com/2008/02/25/c/
http://portal.nifty.com/special04/11/28/2.htm
ニューヨークにエレベーターが登場したのが1889年だから、ミラーは1891年生まれなので、20代のころにはそこそこ普及していたんでしょう。さすがに昔の風習なので昇降係をいうことを補っておきます。訳注ですませるっていう手もありますねー、あれやってみたかったんだよねw そのうちやろうっと。



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アルバートが来るといつも彼の到着を知らせる一騒ぎが起きる。罵声と悪態が響きわたり、アルバートがエレベーターの昇降係に――僕らの仕立屋のある階の床とエレベーターの床との間に、彼の曲がった腰が砕けそうなほどの段差が出来ているという結果に対して――気前よくチップを払えるものかと大声でののしっている。もしエレベーターが床に対して正確に4分の1インチ以内に寄せることができなかったら、チップは1セントたりとも出ない。それだけではなく、腰のひん曲がった骨のもろいアルバートは、彼の棺おけに納まるベスト――彼の最後の水玉ベストに付けるのにふさわしいボタンを選ぶという、最悪の時と迎えただろう。(アルバートが死んだ時、僕は彼の水玉ベストをすべて貰いうけた。水玉ベストは、戦争が終わるまでの間、僕の服装を実にふさわしく保った。)

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